【2026年現地ルポ】名古屋手羽先が世界的グルメへ昇華した日。激化する老舗の覇権争いと、アジア大会前夜に咲き誇る「ネオ・ソウルフード」の攻防
名古屋 手羽 先の香ばしいスパイスの香りが、夕暮れ時の栄や大須の街角に漂う。パリッと揚がった皮に、ピリッと辛い胡椒、そして秘伝の甘辛タレ。かつては知る人ぞ知る地方の居酒屋メニューに過ぎなかったこの一品が、今や世界中の美食家たちを虜にするコンフォートフードへと変貌を遂げている。2026年、第20回アジア競技大会(愛知・名古屋)の開催を今秋に控え、街全体が異例の熱気に包まれるなか、地元ソウルフードの最前線で今、何が起きているのか。現地取材で見えてきたのは、伝統を守り抜く職人と、固定観念を打ち破る若手シェフたちの熱き攻防だった。
金曜日の午後7時。名駅近くの居酒屋の前には、長蛇の列ができていた。並んでいるのは地元の会社員だけでなく、スマホを片手に期待に胸を膨らませる欧米やアジアからの観光客だ。海外の有名食文化メディアが発表した「今年訪れるべき世界のアジアン・ストリートフード都市」で名古屋が上位に選出されたことも追い風となり、本場の名古屋 手羽 先を味わいたいという熱狂は過去最高潮に達している。半世紀を超える歴史を持つ名物料理は、なぜこれほどまでに人々を引きつけて止まないのだろうか。
「風来坊」対「世界の山ちゃん」——2大巨頭が仕掛ける2026年の新スパイス戦争

名古屋の手羽先文化を語る上で、元祖である「風来坊」と、全国展開でその名を轟かせた「世界の山ちゃん」の存在は外せない。前者が表面はパリッと香ばしく、中はジューシーな肉質にゴマと甘辛いタレを効かせた繊細な味付けを特徴とするならば、後者は思わずビールをおかわりしたくなる刺激的なコショウの辛さが売りだ。
しかし2026年、この二大巨頭の対立軸に新しい変化が生じている。「風来坊」が創業当時の手仕込みの技を再評価するプレミアム店舗を展開する一方で、「世界の山ちゃん」は海外展開を急速に加速。両者の火花散る切磋琢磨が、街全体のレベルを底上げしているのだ。長年通い詰める地元の常連客は「どちらが美味いかという議論はもう古い。今や気分やペアリングするお酒に合わせて店を選ぶのが名古屋人の常識だ」と語る。
アジア競技大会を見据えた国際化:「植物性手羽先」とハラール対応の衝撃

2026年秋に迫った愛知・名古屋アジア競技大会は、地元の飲食店に大きな変革を迫っている。世界中から多様な宗教や食習慣を持つ人々が集まる中、手羽先業界もまた、多様性への対応を急速に進めている。
特に注目を集めているのが、老舗と新興スタートアップが共同開発した「植物性代替肉の手羽先」だ。大豆タンパクをベースに、特殊な技術で手羽先特有のゼラチン質とジューシーな食感を再現。伝統の秘伝タレとスパイスを纏わせることで、本物と遜色ない味わいを実現した。宗教上の理由で鶏肉を食べられない旅行者からも「本物の名古屋の味を体験できた」と絶賛の声が上がっている。
クラフトビールとの奇跡のペアリング:若手醸造家が挑む「手羽先専用IPA」
ここ数年、名古屋市周辺ではクラフトビール醸造所が急増している。彼らがこぞってターゲットにしているのが、手羽先との最高のペアリングだ。
大須にあるマイクロブルワリーのヘッドブルワーは、スパイスの強い刺激を受け止めつつ、口の中の油分を心地よく洗い流す「高アルコール度数かつ柑橘系アロマのIPA」を開発した。手羽先の持つ濃厚な旨味と、ホップの力強い苦味が口の中で絡み合う瞬間は、まさに至福の体験。従来の大衆居酒屋のイメージを覆し、若者や女性客を取り込む新たな食文化として定着しつつある。
職人の勘から二度揚げテクノロジーへ:進化する調理プロセス
手羽先が美味い理由は、その徹底した調理プロセスにある。一般的に手羽先は、低温でじっくり火を通した後に、高温で一気に揚げる「二度揚げ」が行われる。これにより、外はサクサク、中はふっくらとしたジューシーさが生まれるのだ。
近年では、この職人技を数値化・自動化するスマートフライヤーを導入する店舗も登場している。油の温度変化や肉の水分の抜け具合をリアルタイムでセンシングし、常に最適な状態で揚げ上がらせる技術だ。手仕込みのこだわりを守る頑固な職人と、テクノロジーで均一な高品質を提供する新世代。アプローチは違えど、旨い手羽先を届けたいという情熱に変わりはない。
骨がきれいに外れる「極意」:名古屋人が伝授する美しき食べ方
初めて名古屋の手羽先を目の前にした観光客が戸惑うのが、「どう食べればいいのか」という問題だ。手をベタベタにしながら苦戦する外国人を横目に、地元の名古屋人は驚くほどスマートに骨だけを残して平らげていく。
その極意はシンプルだ。まず手羽先の関節部分をポキッと折り曲げて2つに分ける。そして肉の太い方を口に含み、歯でしっかりと押さえながら骨をすっと引き抜く。これだけで、一瞬にして骨だけが綺麗に抜け、口の中には旨味たっぷりの肉とスパイスが広がる。「この食べ方をマスターして初めて、一人前の名古屋通と言える」と、地元の常連客は笑う。
一羽の鶏肉から始まるローカル経済の持続可能なサイクル
手羽先ブームの裏側で、地域経済と環境に配慮したサステナブルな取り組みも広がっている。元々、手羽先という部位は、正肉(胸肉やモモ肉)を取った後に残る、評価の低かった部位だった。それを工夫とアイデアで名物料理へと昇華させた歴史自体が、フードロス削減の原点とも言える。
現在では、愛知県産の地鶏「名古屋コーチン」の生産農家と提携し、地産地消を推進する動きが活発だ。さらに、揚げ油のバイオ燃料化や、廃棄される骨から出汁を抽出してスープやラーメンのベースに再利用する循環型ビジネスモデルも登場している。単なる名物料理にとどまらず、地域の未来を支えるサステナブルな食文化として、名古屋の手羽先は今も進化を続けている。 (出典: 名古屋 手羽 先(Yahoo!ニュース))